2014年11月5日水曜日

木枯らし一号

2014.10.28
宮崎さんへ

 きのうは木枯らし1号が吹き、昼間の暖かさから一転、冷たい風が吹き始め、ファミレスの店頭にはためくはずののぼり「餃子 持ち帰り 150円」は地面に倒れておりました(バーミヤン)。もともとはリハーサルの日にちとしていたのですけれど、考える時間をもらうことにして、予約済みのリハーサル場に一人で向かって、ゴロゴロしたりパソコンを開いたりお茶を入れたり音楽を聞いたり、この秋を生きのびて順にこちらへ近づいてきた三匹の蚊を虐殺したりしました。仰向けになった蚊が並んだ机での考え事はあまりハカバカシイとは言えませんでしたが、ステイトメントを並べ立ててもうまく辿り着かない具体的な手触りについて考えるのにふさわしい状況ではありました。帰り道、もうひとのいないインターナショナル風の幼稚園には「ハッピーハロウィーン」の飾り付けがされており、方々からおいしそうな食べ物の匂いがただよっていました。いよいよ秋深まるこの時期の街は適度な湿度も相まってきらびやかです。

 先日出演者三人が揃う機会があり、そこであらためてというか、ようやくというか、そもそも今回どうやってつくるのかを考えざるを得ない状況になりました。
 5月は意志の疎通が必要ない一人の作業の集積で作ったわけで、つまりは、催しそのものの心意気を別にすれば、よくもわるくも前提や目標、方法選びの基準や根拠を言葉にする直接の必要はなかったのですけれど、今回他人であり、かつ、いい質問や提案をくれる出演者たちを前に、一体私はどうして何がしたいのか、という根本的な部分と、アイデアやイメージとは別の、どうやって? という実際の疑問のどちらもが問われ、もうマジで口ごもりました。あらためて説明してみたら見事に迷子になりました。いまオマエは怒られてんのかってぐらい口ごもりました。といっても重要な口ごもりだったのは間違いありません。間違いないような気がします。ちょっと口ごもりすぎて自信ないですが。
 そんなこんなで昨日は考えることに専念したのでした。試したいことの素案を作って/捨てて/選んでいかなければなりません。なんでもかんでも私が考えて決めてその通りというのとは違いますが、どうにかして乗ってもらえるような土台は用意しなければなりません。

 今回こういうことを考えていると何人かの友人たちに伝えてみますと、それぞれが思うことに加えて、どこか関連すると考えて数多の作品を薦めてくれるのですがそのどれもが面白く、おののいております。
 昨日はその友人のうちの一人から借りたばかりの漫画『ハウアーユー?』(山本美希さん)を夜じゅう読みました。この単行本、本編もさることながら、巻末の解説っぷりがまた面白いです。冒頭から順に細かな表現の手法、工夫とそれが狙っている効果とを書いているのですが、思い入れだとかを抜きにして、自分の選んだ手法をきちんと距離をとって検証するように言葉にしていく清潔な手つきにしびれました。ちいさなエピソードやモチーフをわりとあからさまに文学からサンプリングしているのも面白かった。あと何と言っても絵がよい。カバーの絵とカバーをとった表紙の絵がよい。参考云々以前にオススメの漫画です。今日はこれまた朝方にかけ映画『ルビー・スパークス』を見ました。小説を書く主人公の前にその小説の登場人物であったヒロインが現れるという変則的なラブストーリーです。「登場人物」の層とどういう関係をとるのか、が私にとって気になるポイントだったのですが、どちらかというとラブが全面に出てくるストーリーで、イケてない日常、奇跡のように作り上げられた理想的なヒロイン、蜜月、バランスを欠いたのめり込み、暴力的なコントロール志向、破綻、自由に放つ寂しさ、運命の再会、というもうホントざっと書き並べるとそういう話だったんですけれども、登場人物と関わる作者の姿勢はひたすらエゴイスティック&ロマンティックで、『ソフィーの世界』(映画のほう)に見られた登場人物を取り扱う倫理のようなものはあんまり感じられなかった。すべてがお話に集約されてゆくのはハリウッドあるあるなのかもしれません。個別のエピソードが個別に終始するのは当たり前といえば当たり前、というか特にラブストーリーにとっては見ている人が一時のめりこむことはなにより大事なのかもしれないけど、ラブストーリーで言えば『アデル、ブルーは熱い色』とか『エターナル・サンシャイン』がもってるような、重さとは裏腹のアッケラカンとした感じが私は好きです。思い入れと突き放しが同居するあの感じ。あれはなんなんでしょう。単なる身振りとして登場人物を劇中劇から(また別の)劇のなかへと移動させていく状況設定ではなくて、登場人物が劇からただ放たれる瞬間が私には面白く感じられます。お話がうまくいくかいかないかではなくて、登場人物が背を向けて勝手に歩いていってしまうとき、はじめて私と登場人物の間にあった段差が消える。
 かといってそもそもというような根っこの部分を掘り返したいわけですが。

 台湾はその後いかがですか。もう次の場所へと移動しましたか。香港で宮崎さんがどんな演説をしてどんな質問をしたのかとても気になっています。


善積元

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